本場奄美大島紬の工程

2014年04月30日

瀬戸内町大島紬協同組合は、昭和57年に設立され、今年(2014)で31年を迎えました。設立当初は、大島紬上昇期であり瀬戸内町のあちらこちらで筬音(おさおと)が響き渡り、瀬戸内町でも大島紬の生産が盛んに行われていました。
現在瀬戸内町では、親方や締め等の職人はいなくなり、当時のような大島紬の生産は行われていません。本組合の活動は、奄美市や龍郷町からの原料をいただいて、大島紬の最終工程である『製織(せいしょく)』の技術を学び、織りの技術者養成と紬のハギレや糸を使った小物製作をしております。
当時の瀬戸内町で生産されていた大島紬の工程と現在まで受け継がれている作業工程などを、当時、親方として勤務されていた徳山吉治さん(現在77歳)にお話を伺いながら調査しました。
 

本場奄美大島紬の工程は、大きく分けて9つの工程があます。
①図案製作
②糸繰り(いとくり)、整経(せいけい)
③糊張り(のりばり)
④絣締め(かすりしめ)
⑤テーチ木染め・
⑥泥染め
⑦加工
⑧製織(せいしょく)
⑨製品検査
その一つ一つの作業工程を細かく分けると数十種類もの作業があります。これらは、すべて職人さん達の丁寧な手作業により行われています。反物が出来上がるまでに、半年から一年以上の時間と労力がかかっています。これらの気が遠くなるようなすべての作業は、どの工程も美しい大島紬を完成させる為に大変重要な作業なのです。


まずは、1つめの作業「図案製作」から見ていきましょう。
『図案製作(ずあんせいさく)』は、デザインされた原図の絣(かすり)模様を方眼紙に点や線にして書き写していく作業です。方眼用紙は、3mmや2mm等の細かいマス目で、種別や糸の密度などに合わせて、図案を製作していきます。

そして、図案が完成すると織物設計にはいります。
原料は、絹糸を使用。
経糸(たていと)は、地糸(じいと)と絣糸(かすりいと)に分けられ、絣糸は糊付けされ糸繰りをします。
緯糸(よこいと)も経て同様に地糸と絣糸に分けられ、絣糸は糊付けされ糸繰りをします。


次に、2つめの作業は「糸繰り・整経」です。
『糸繰り・整経(いとくり・せいけい)』は、図案に基づき、その種別で必要な分の絹糸の長さと本数を揃える作業です。
糸繰りは、ざぐりと言われる道具を使い糸を枠にくります。

整経は、ざぐりで繰った糸を専用の台に巻いていきます。




何周巻いたかで長さを計算します。


そして、3つめの作業「糊張り」です。

『糊張り(のりばり)』は、絹糸を直線にピンと張り、揃えた糸がバラバラにならないように糊を付け、天日で充分に乾燥させ固める作業です。
糊とは、“イギス”“カシキャ(ふのり)”等の海藻を鍋で煮て溶いたものを使用します。
イギスは固く、カシキャは柔らかい。カシキャの赤色は水にさらして日光に当て乾かす作業を何度も繰り返すことで白くなります。
現在、瀬戸内町でもこの海藻がとれますが、昔と比べると少なくなっているそうです。

*カシキャと呼ばれる海藻の乾燥したもの(左が瀬戸内町産、右は島外産)


それから、4つめの作業は「締加工」です。
『締加工(しめかこう)』は、機織りの際に使われる織り機の倍の大きさの締機(しめばた)という締専用の機を使います。大島紬独特の複雑で細かな絣模様を作る為の作業です。図案に合わせて絹糸の絣部分を防染する為に、木綿糸で織り締めて絣筵(かすりむしろ)をつくります。
重いバッタンを打ち込み締めていく力のいる作業は、しっかり締めていかないと、その後の染めで色がしみ込んでしまい綺麗な柄が出ずムラになります。

昔からこの作業は、男手の仕事とされてきました。


機が動かないように大きな鎖で固定されています。とてもチカラのいる大仕事なのです。
 

そして、「染め」の作業に入ります。

本場奄美大島紬の染めの分類は、
泥大島(テーチ木と泥で染めたもの)
泥藍大島(藍で染めた絣をテーチ木と泥で染めたもの)
草木泥染大島(テーチ木以外の草木と泥で染めたもの)
色大島(化学染料で染めたもの)
白大島(染料で染めていない白いままのもの、抜染された白いもの)があります。

ここでは、泥大島について紹介します。

5つめの作業は『テーチ木染め』です。
テーチ木とは、シャリンバイ(車輪梅)のことです。

このテーチ木の枝を斧や機械で切り分けてチップにし、2日間掛けて釜で煎じた液を使用し絹糸を染める作業です。


何度も液を替えて繰り返し揉み込み染色すると、絹糸が赤茶色に染まります。
地糸は、熱い液を使用することができます。
絣糸は柄を出す為に締加工によって締められた部分があり、熱い液を揉み込むと染めてはいけない部分に液が入ってしまい、美しい柄が出ない為、常温で優しく染めていきます。
このように、一つの布に一緒に織り込まれる地糸と絣糸は、異なる方法で別々に染められる為、色の差がでないように仕上げていくには職人の長年の勘と技でしかありません。


そして、6つめの作業は『泥染め』です。
泥染め(どろぞめ)は、5つめのテーチ木で赤茶色に染めた絹糸を粒子の細かい泥のある生き物あふれる綺麗な泥田で染める作業です。


泥に含まれる鉄分とテーチ木のタンニンが反応し、絹糸が赤茶色からだんだん黒く変わっていきます。泥と水分を含んだ重い糸をデザインによって仕方を変え丁寧に何度も揉み込みます。

テーチ木染め20回に泥染1回を交互に何度も繰り返し深みのある独特な黒褐色に染め上げます。石灰で色止めされたテーチ木の赤茶色の絹糸は、ごわつきがありますが、泥に入ると柔らかく変化し、力のいる手仕事の中に丁寧さも要求される繊細な作業です。


それから、7つめの作業は「加工」です。
『加工(かこう)』は、機織りの前に最終的な糸の整理や準備をする作業です。
染めた絣筵の木綿糸を全て取り除き、一本一本の糸の状態にして、図案どおりに並べます。


絣模様に色を付ける場合は、この段階で図案に合わせて色を挿していきます(刷り込み)。

 

経地糸(たてじいと)は、糊付け→糸繰り→整経→ビーム(経の地糸が巻かれているもの、千切・マキチャ)に巻く。
 

経絣糸(たてかすりいと)は、絣筵解き→糸を順番に並べる→水洗→仕上げ糊張り→板に巻く。
 

緯絣糸(よこかすりいと)は、絣筵解き→揚枠(道具を使い、糸を1本1本分ける)→水洗い。
 

緯地糸(よこじいと)は、油付け。
 

 

そして、8つめの作業は「製織」です。 
『製織(せいしょく)』は、機織りです。
管(くだ)に巻き取った横糸を杼(ひじき)に通して、高機で織り上げる作業です。

織るためには、まずこの機織りに糸を設置する作業から始まります。
経糸(たていと)は、配列(あやひろい)で千何百本ある糸を順番に並べます。

綜絖通し(そうこうとおし・ほやとおし)で、ほや・ふやと呼ばれる輪と輪の交わる部分に糸を通します。


そして、筬(おさ)通しです。筬通し器を使い筬歯の狭い隙間に規則正しく糸を入れていきます。


緯糸(よこいと)は、管巻き(糸繰り)で真ん中が膨らむ形に固くしっかりと巻きます。地糸と絣糸の区別ができるように管は地と絣で色分けをします。繰った管を杼に入れて準備完了。


機付けで、織れるように経糸をいなに巻きけん棒で良い強さに張り緯糸を通し本場の文字と地球印を織り込んでから、柄の製織に入ります。

製織によって織り上げられた布を検査する前に製品整理(せいひんせいり)の段階でチェックし飛び出ている余分な糸を始末したりして綺麗に仕上げます。


最後に、9つめの作業は「検査」です。
『検査(けんさ)』は、織り上げられた本場奄美大島紬を本場奄美大島紬協同組合で検査する作業です。検査員が、長さ・織幅・絣不揃い・色ムラ・織りキズ・量目不足など、24項目に及ぶ厳重なチェックを行い、合格不合格を決定します。


柄や種類によって、作業が変わることもありますが、このような流れで本場奄美大島紬が仕上がります。ひとつひとつ手作業で時間をかけて作り上げられる大島紬の技術は、時を経て受け継がれ、時代と共に変化を遂げています。そして、たくさんの人たちが手にとり身に着けることで、私たちの生活に花を添え生きていきます。

これからも大島紬が、多くの人たちに受け継がれていくことを願います。