シンポジウム奄美のイルカ・クジラ2012

2012年11月27日
「シンポジウム 奄美のイルカ・クジラ 2012」 ~歴史と今から創造する未来~
が11月3日(土)、瀬戸内町古仁屋で開催されました。

瀬戸内町は、かつて捕鯨基地が久根津集落にあり、
1974年には大島海峡で捕獲されたミナミバンドウイルカが
国内新記録種と確認されたところ。

また2006年から町内のダイビング業者が中心となり
「カケロマホエールプロジェクトX」として、
イルカ・クジラの情報収集・発信をしています。

そんなイルカ・クジラと関わりの深い瀬戸内町で
生態調査・歴史・民俗・観光と多岐にわたってのシンポジウム。

国内各地から著名な研究者のかたがたが参加し、
イルカ・クジラに対して理解を深めるための発表、
今後の観光活用や環境保全につなげるための議論や提言が繰り広げられました。


このようなイルカ・クジラに関するシンポジウムが奄美群島で開催されたのは始めて。
会場となる、せとうち物産館は120人以上のお客さんでいっぱいでした。



プログラム 
第1部 <奄美における鯨類の歴史と今>


一人目の発表は、
「 イルカとクジラの生態 」 ~分類と分布~
吉岡 基 氏 ( 三重大学 )

イルカ・クジラの生態や、奄美大島近海での個体識別調査結果の報告、
地域と鯨類との共存を考える上で、
奄美の鯨類の種類や状況など生態についてあらためて把握する必要があるとの発表がありました。



「 先史の奄美の人々と鯨類との関わり 」 ~遺跡から出土する鯨類骨格から探る~
中山 清美 氏  ( 奄美市立奄美博物館 )

遺跡から出土した資料をもとに、シマ(集落)における人々と鯨類・自然との関わり、生業を紹介。
奄美の人々がクジラ漁を行ったのは、比較的新しく中世以降。山と海からの資源を得てきた島の独自性は、
自然の中で育まれた生活文化でシマの景観としてとらえ、大切に敬い、守り、伝え残さないといけないシマの宝であると述べられました。




「奄美の捕鯨史」 ~久根津集落の歴史~
町 健次郎 氏  ( 瀬戸内町立図書館・郷土館 )

奄美大島における人々とクジラの関わりを民俗と歴史の両側面から紹介。
大正時代に瀬戸内町の久根津にあった捕鯨基地について集落と周辺の人々の様子を中心に、奄美の捕鯨について語りました。
 





特別講演 「日本のミナミバンドウイルカ事始め」 
~大島海峡における新記録種としての発見、捕獲、畜養、輸送~
内田 詮三 氏  ( 美ら島研究センター ) 


内田氏は、沖縄 美ら海(ちゅらうみ)水族館の前館長。

1975年の沖縄国際海洋博マスコットキャラクター、イルカの”オキちゃん”は、
その前年、内田氏らが大島海峡で捕獲したイルカたちで、
国内新記録種のミナミバンドウイルカと確認されました。

内田氏は、貴重なその当時の写真とともに、
ミナミバンドウイルカの捕獲、畜養、ショー訓練、輸送、
死亡原因などについて報告。
 


ミナミバンドウイルカを捕獲した人員27名のうち、奄美大島の漁師さんが20人が協力したそう。

大島海峡から16頭をヘリコプターで海洋博会場に輸送し、飼育・展示。

なんと、この時に捕獲されたミナミバンドウイルカは、
現在も5頭生存。美ら海水族館で「オキちゃん劇場」の”オキちゃん”として2頭がショーで活躍! 
3頭はふれあいコーナーにいるそうです。




「奄美群島のミナミバンドウイルカ」 ~奄美大島周辺海域における出現と個体識別~
船坂 徳子 氏  ( 三重大学 )


三重大学と美ら島研究センターでは、奄美大島周辺に生息するミナミバンドウイルカの分布や移動、生息数を調査するために2007年から生態調査を実施。2012年4月までに与路島周辺、大島海峡、東シナ海では計23群214頭の発見があったと報告。
 


 
 



 




「奄美大島のザトウクジラ」 ~沖縄近海の識別個体と奄美大島の識別個体の照合~
岡部 晴菜 氏  ( 美ら島研究センター )


1992~2011年に奄美大島周辺海域において撮影された約1500枚の個体識別結果、および沖縄と奄美間の照合結果について報告。
 
 



第2部 <地元及び他海域での取り組みと観光との関わり>

「奄美大島における地元の取り組み」 
~カケロマホエールプロジェクトXによる2006年-2011年鯨類出現調査結果~
濱地 武之 氏  ( カケロマホエールプロジェクトX代表 )


冬のホエールウォッチング観光実現による地域活性化を目標とし、発足したカケロマホエールプロジェクトX。
プロジェクトの調査結果や取組みなどについて報告。
今後の奄美でのウォッチングの可能性を示唆しました。
 

その他のスライドは→こちら


ここから、イルカ・クジラを観光活用した先進地として、
東京都の御蔵島と、小笠原についての発表がありました。

「御蔵島のミナミハンドウイルカ」 
~エコツーリズムの概念に基づいたドルフィンスイム体制の紹介~
小木 万布 氏  ( 御蔵島観光協会 )


人口300人ほどの御蔵島では、1993年よりイルカウォッチングがスタート。野生のイルカと一緒に泳ぐ、ドルフィンスイムなどで人気・注目を集めている島です。イルカの個体調査などから明らかになった生態や、エコツーリズムに基づいたウォッチングの方法やルール、島内ガイドの取組みなどが紹介されました。

 


 


 




「小笠原のミナミハンドウイルカおよびザトウクジラ」 
 ~鯨類ウォッチングにおける環境保全と観光振興両立のための取組~
森 恭一 氏  ( 帝京科学大学 )


森氏は小笠原ホエールウォッチング協会としての立場と、大学でのクジラ研究をもとに発表。

1988年にホエールウォッチングが始まった先進地である小笠原。ホエール・イルカウォッチングは主要な産業となり観光客も増加。昨年、世界自然遺産に登録され、観光客の急激な増加により新たな観光の局面を迎えているそうです。またホエールウォッチング開始から20年が経過、成熟期に突入し、地道な努力が必要となってきているとのこと。野生動物の観光利用と保全策が両立しているエリアとして、奄美が参考にできる点が数多くある事例を紹介されました。


 


 


 



9名のかたの発表を終え、総合討論へ。
奄美でのウォッチングのありかた、発表についての質疑応答がありました。

コーディネーターは、三重大学の吉岡基氏。


島内でガイドをなさっているかたがたからの質問に、

先進地である御蔵島・小笠原の状況をふまえたアドバイスをいただきました。



最後に、内田詮三氏から総括のお言葉をいただき閉会。



さまざまな角度から奄美のイルカ・クジラに関する貴重な話が聞くことができ、
本当に興味深い内容でした。

カケロマホエールプロジェクトXなどの調査から
瀬戸内町周辺海域でのイルカ・クジラの個体数は増加傾向が見られ、
イルカ・クジラウォッチングは観光産業として成り立つ可能性は高いそう。

もちろんイルカ・クジラを守りながら観光に生かしていくには、
生態調査の継続、人材育成、環境保全のルール設定など
さまざまな課題があるとのこと。

大島海峡を渡る海上タクシーなどで、
イルカをたまーに見かけることがあります。
また旅行でホエールウォッチングの経験もありますが、
あの興奮、迫力と感動は素晴らしい思い出です。

今後もこのようなシンポジウムや取り組みが続き、
瀬戸内町だけでなく、奄美大島全体で
意識が高まり盛り上がっていくといいですね。




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11月26日~12月1日、
あまみエフエム ディ!ウェイブの「ナキャワキャ島自慢」で
シンポジウムの様子や、瀬戸内町久根津集落でのインタビューなどが放送されてます。

■ナキャワキャ島自慢 1日2回放送http://dwave.amamin.jp/e294595.html

朝8時~  「スカンマーワイド!」 / 昼12時~ 「ヒマバンミショシーナ!」内のコーナーです。

あまみエフエムのサイマルラジオ、エフエムせとうちでも同じ時間にお聴きいただけます。




2012.11.3
瀬戸内町 古仁屋


S.B.I (瀬戸内町 文化遺産 活用実行委員会) 広報K

鹿児島県 奄美大島 瀬戸内町立図書館・郷土館内